釘と屏風

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【書評】栗下直也『人生で大切なことは泥酔に学んだ』-二日酔いの頭でふとこの本のことを思い出してそんなに読み込んでいない気もするけどいい本だったのでまた読みます頭痛い(左部)

栗下直也『人生で大切なことは泥酔に学んだ』-二日酔いの頭でふとこの本のことを思い出してそんなに読み込んでいない気もするけどいい本だったのでまた読みます頭痛い(左部)

呑むべしや、今夜は、死ぬほど呑むべしや、というような工合いで、一刻も早く酔っぱらいたく、どんどん呑んだ。(中略)眼をさましてすぐ家の者にたずねた。「何か、失敗なかったかね。失敗しなかったかね。わるいこと言わなかったかね。」

 失敗は無いようでした、という家の者の答えを聞き、よかった、と胸を撫でた。 

太宰治「酒ぎらい」『もの思う葦』新潮文庫1980.9

酒ぎらい

酒ぎらい

 
もの思う葦 (新潮文庫)

もの思う葦 (新潮文庫)

 

はじめに

人生で大切なことは泥酔に学んだ

人生で大切なことは泥酔に学んだ

  • 作者:栗下直也
  • 発売日: 2019/07/01
  • メディア: 単行本
 

酒が好きだ……いいや、嫌いだ。嫌いだけれども、飲むのだ。やっぱり好きなのではないか。いやいや、そんなことはない。酒は嫌いだ。頭が痛むは財布の中身は寂しくなるは時計はなくすし友達もいなくなるし恋人も去っていく、、、嗚呼。まぁ、でも、飲むのだ。飲んでしまうものは仕方がない。そう割り切って平謝りを続けるしかない。

『人生で大切なことは泥酔に学んだ』の著者である栗下直也氏は本著によると経済記者らしい。ツイッターでこの本の紹介記事を読み、書店に走り手に取った。書き出しはこうだ。

気持ちが悪くて、起きられない。本書を手に取った人は少なからず、その経験者ではないだろうか。前の晩に二軒目、三軒目に行かなければ、いや、最後の一杯が余計だったか。そんなことを今更、寝床で悔いても問題は解決しない。

全くである。以下、雑感

書評、感想。

「偉人の泥酔ぶりから、処世術を学ぼう」というのが本書のコンセプトのようだ。なるほど、目次を読むと「通勤篇」「出世篇」のように幾つかの項目があり、「どうしても電車に乗れなかったら」などと、その状況に応じて偉人のエピソードを交得て紹介している。

例えば、太宰治であれば、「お金がなくても、呑んでしまったら」と題されている。会計の時、太宰と友人の檀一雄は金を払うことが出来ない。太宰は作家の菊池寛に金を借りに行ってしまい、その間、檀一雄が一人太宰の泊まっていた宿で足止めをくらってしまう、というエピソードが紹介されている。

偉人にまつわるエピソードを著者のエピソード(これがまた面白い)と織り交ぜながら面白おかしく(といっても、ただ事実を書いているだけなのだけど)語っていくというのがこの本のスタイルだ。

で、肝心の「処世術」なのだが、、、なんと書かれていない!

これがこの本の良さだと思うのだが、エピソードの一つ一つから「まっ、いろんな失敗したけどしょうがないよね」と泥酔から開き直った時の、あの晴れやかな感覚が呼び起こされる。

作者は語る。

時代が違うといえばそれまでだが、彼らの行動は当時でも問題になっている。人は欠点があろうが、少しばかり失敗しようがやり直せるのだ。本人の前向きな姿勢と周囲の少しばかりの寛容な目があれば。お酒という題材を扱ったことには賛否があるかもしれないが、本書の本質はそこにある。

おわりに

朝起きてラインや電話の履歴、はたまたTwitterの呟きを見返すことが多い。泥酔明けである。酒を飲みすぎて仕事を休んだ日もある。それでも「悲しいかな、酒を呑んでしくじったところで人生は終わらない。」のだ。

酒席ではしゃぎ、絶縁を言い渡されたことも少なくない。未熟な私は酒の所為にした訳だが、それが私の本質なのである。

開き直ってる訳ではなく、無限の反省、長文の謝罪文、空っぽの財布、失われた時計、失われた信頼、失われたetc、、、、、、それらを経て現在がある。

偉人が偉人たる理由は功績を残しているからだ。どれだけ失敗をしても偉業を成すことが出来るのだということを胸に、今日も二日酔いを超えていきたい。

スナックではしゃいで殴られたことも、路上で寝ていた日のことも他人の部屋に間違えて入ったこともあった。それでも私と仲良くしてくれる人がいるという一つの事実に感謝をしながら、頑張って生きていこうと思いましたありがとうございます。

良い本でした。

 

私は他人の失敗を嗤わない貶さない貶めない。

頭が痛いです。ではでは。

 

文・左部右人(@bungei_pops